1つの島に追い込まれていた大型昆虫が、新たな生息地へ広がっています。ニュージーランド自然保護省(DOC)は2026年10月2日、ウェタプンガの回復事業の成果を紹介しました。約15年で累計1万1000匹を、10か所の野生の環境へ移した取り組みです。
大切なのは、放した数だけではありません。先に放出を始めたモトゥオラ島とティリティリ・マタンギ島では、少なくとも4世代にわたる繁殖を確認。人が育てた昆虫を移す段階から、野生で次の世代が育つ段階へ進んでいます。
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これまでの経緯|1島からの再出発
ウェタプンガは、ニュージーランド固有のジャイアントウェタの一種です。学名はDeinacrida heteracantha。飛べない夜行性の昆虫で、長い触角と大きな後ろ脚を持ちます。雌は最大35グラムほどになり、DOCはネズミやスズメを上回る重さになることもあると紹介しています。

かつては北島北部に広く生息していました。しかし、森林の開墾や、持ち込まれたネズミなどの捕食動物で減少しました。20世紀半ばまでに、自然に残った生息地はリトル・バリア島だけになっていました。
残った島の昆虫を大量に別の島へ移すと、元の個体群を弱めるおそれがあります。そこで少数の親を飼育施設に迎え、増やした子を新しい生息地へ移す方法が選ばれました。バタフライ・クリークで始まった飼育には、2012年からオークランド動物園も加わりました。
DOCの生態解説によると、ウェタプンガは昼間、枯れ葉などに隠れ、夜に木や地面を移動します。新鮮な葉を食べ、雌は森の地面の柔らかい土に卵を産みます。放出先を用意するには、捕食者の対策に加え、餌や隠れ場所も必要です。
動物園のモトゥイヘ島での活動紹介では、昆虫を竹の筒に入れて運び、適した木に固定する工夫が説明されています。昆虫は筒を隠れ家として使いながら、周囲へ出ていけます。
動物園の放出映像を開く
数字で見る|放出数と定着は別
飼育で数を増やし、場所を分散させる。その成果を読むときは、「何匹を移したか」と「移した先で繁殖が続いたか」を分けると分かりやすくなります。
| 項目 | 数字 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 累計の放出 | 約1万1000匹 | 現在の総個体数ではない |
| 移送・放出の回数 | 45回 | 約15年の取り組み |
| 新しい生息地 | 10か所 | 島8か所と本土の保護区2か所 |
| 先行する2島 | 少なくとも4世代 | 野生で繁殖が続いた証拠 |
出典:DOCの2026年10月2日発表。放出先すべてで同じ世代数が確認された、という意味ではありません。
研究論文では、野外で見つかった成虫や足跡の時期を、飼育で分かった成長・繁殖の周期と照合しています。世代数は、すべての親子を一匹ずつ追った家系図ではなく、観察記録とモデルから判断されたものです。
それでも、放した個体が一時的に生き残っただけの場合とは違います。複数の世代にわたって現地に姿があることは、その場所で暮らしと繁殖が続く可能性を示す大事な手掛かりです。
この先|増えた場所を守り続ける
新しい10か所のうち、長期の世代交代を詳しく確かめられたのは先行する2島です。ほかの場所も、同じように定着したと言い切れる段階にはありません。研究者は継続した観察が必要だとしています。
さらに、本土の柵で囲まれた保護区には、ハツカネズミが残る場所もあります。島と本土では環境が違うため、放出先が増えたことと、どこでも同じように生きられることは分けて考える必要があります。
- 餌となる植物や昼間の隠れ場所が保たれているか。
- 捕食動物の侵入を防ぎ、継続して見張れているか。
- 放出後も、野生で次の世代が育っているか。
事業には飼育施設だけでなく、先住民のナーティ・マヌヒリや地域の自然再生団体も関わっています。資金を集め、放出を支え、その後の観察を続ける人がいて、生息地の拡大につながりました。
詳しくはDOCのウェタプンガ解説で、生態や保全活動を確かめられます。同じニュージーランドでは、カカポが325羽に増えた保全の歩みもあります。昆虫と鳥で方法は違っても、安全な生息地を増やす仕事が回復を支えています。
この記事は2026年10月2日の発表をもとにしています。研究論文の初公開日は2026年9月9日です。
出典:ニュージーランド自然保護省の公式発表(2026年10月2日)/Greenほかの研究論文(New Zealand Journal of Zoology、2026年)。

