東京海洋大学などの研究グループが、クルマエビの養殖で問題になる病原細菌の増殖を抑える細菌の候補を、飼育水から効率よく探す技術を開発しました。2026年9月3日に発表され、候補は18株です。
養殖の現場では、細菌による病気が大きな悩みです。抗生物質に頼らず、環境にいる細菌の力を借りる方法が注目されています。今回の成果は、その「味方の細菌」を探す入口を広げる研究です。
研究は東京海洋大学とオンチップ・バイオテクノロジーズが、科学技術振興機構(JST)の支援を受けて行いました。論文は9月2日(英国時間)に国際学術誌「Scientific Reports」で公開されています。
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なぜ薬に頼らない方法が求められる?
論文によると、クルマエビなどのエビ類は、世界で最も広く養殖される甲殻類の仲間です。しかし細菌などによる感染症が繰り返し起き、生産の損失につながってきました。
エビ類には、魚のような獲得免疫の仕組みがありません。そのためワクチンが使えず、別の防除法への需要が強いと論文は説明しています。
抗生物質は水を通じて周囲の環境に広がりやすく、耐性菌が生まれる懸念もあります。そこで、特定の細菌の増殖を抑える「拮抗細菌」を使う方法が候補に挙がっています。
これまでの探し方の限界
拮抗細菌は、100年以上にわたり寒天培地で探されてきました。ただ、この方法には弱点があります。
- 広い場所と多くの材料、手作業が必要になる
- 寒天の上では育たない細菌が、環境中に数多くいる
- 増えるのが速い細菌が先に広がり、ゆっくり育つ細菌や数の少ない細菌が埋もれる
今回のチームは、この弱点を微小液滴で補いました。
数字で見る|約90万個の液滴から18株
使ったのは、直径約30マイクロメートルの液滴です。1つの液滴の中で、病原細菌と飼育水の細菌を一緒に培養します。
対象の病原細菌は、クルマエビ類で問題になるビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)です。光る目印の蛍光タンパク質を持たせてあり、増殖が抑えられた液滴は光が弱くなります。その液滴だけを装置で選び取りました。
培養は1.5ミリリットルの小さな試験管の中で完結し、これまでより少ないスペースと短い時間で探せるのが利点です。論文では、4つの条件で合計899,823個の液滴を調べたとしています。
| 選別の条件 | 調べた液滴 | 取り出し→育った穴 |
|---|---|---|
| P1 | 319,784個 | 81個→15穴 |
| P2 | 92,124個 | 48個→0穴 |
| P3 | 381,634個 | 76個→2穴 |
| P4 | 106,281個 | 48個→3穴 |
育った穴から得られたのが、18株の候補です。内訳はシュードアルテロモナス属15株、テナシバキュラム属2株、シェワネラ属1株でした。
配列が99%以上似た株をまとめると、4つのグループに分かれます。環境中に占める割合が1%前後と低い、数の少ない細菌も含まれていました。
エビでの試験で分かったこと
次に、4グループから1株ずつを選び、病原細菌と同時にクルマエビへ注射する試験を行いました。1群は10匹で、体重は平均6.0gのエビです。
結果、生存率が上向く傾向を示したのは4株のうち1株、シェワネラ属の株でした。この株を加えた群の死亡率は30%でした。
ただし、人工海水だけを注射した対照の群でも死亡が見られました。傾向はあっても、効果が確かめられたとは言えません。
寒天の上で行う試験では、どの株も病原細菌の増殖を抑えませんでした。液滴の中で見えた働きが、別の環境でも再現されるとは限らないと分かった形です。
この先|残る課題
研究グループは、今回の成果を「高効率な細菌探索の有効性と、水産分野に活用するための技術的課題を明らかにするもの」と位置づけています。
18株は研究段階の候補です。実用化された治療薬ではなく、養殖現場での予防効果が確立したわけでもありません。
これから必要になるのは、次のような確認です。
- 注射ではなく、飼育水中での感染を想定した試験
- エビの数を増やした、統計的に確かめられる規模の試験
- 養殖現場の環境で、候補の細菌が安全に働くかの検討
それでも、ワクチンが使えない養殖で、薬に頼らない手がかりを探す道具が1つ増えた意義は小さくありません。詳しい手法と結果は、論文と発表資料で確認できます。
この記事は2026年9月3日の発表と、同年9月2日公開の論文をもとにしています。
出典:JST・東京海洋大学・オンチップ・バイオテクノロジーズの共同発表(2026年9月3日)/Scientific Reports掲載論文(DOI: 10.1038/s41598-026-68242-x)

